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Cloudy――朝焼けの空
こんにちは。此処はKの運営するブログです。ポケモン系なりきりチャット「カフェパーティ」を知らない方、なりちゃ成分に抵抗がある方はブラウザバックを推奨します。

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収容所の記憶(SS/R-18指定有り)

 このSSはR-18指定となっていますので18歳未満の方の閲覧をご遠慮頂いています。
18歳未満の方はブラウザバックでお戻り下さいませ。




 ジョウト地方は自然の豊かな場所だ。
勿論、人の住んでいる場所もあり所々に大きな街もある。リニアモーターカーと呼ばれる鉄道が走る場所もある。だけど、そんな場所は人しか知らないごく一部。街を少し外れて、街と街を繋ぐ道には木や草が生い茂る場所が多い。そこに足を踏み入れた人はポケモンの縄張りに足を突っ込んだのとなんら変わりは無いのだ。好奇心のあるポケモン達は人と戦ったり、ゲットされたりすることもあるという。
だけど、それ以外にも多くのポケモンが森に暮らしているのは事実だ。
僕はルーア。ポケモンの一種で、種族はマグマラシだ。
道に出ると人間に捕まることがあるので、道に出たことはない。生まれてから、この森から外に出たことは全くなかった。それでも森の友達は多いし、毎日毎日遊んだり冒険するのには困らないくらい森は広かった。
きっとこれから先、僕は森から出ないで過ごすのだろう。
かくれんぼの最中、森の切れ目から空が見えるお気に入りのこの場所でかくれんぼしていた事も忘れて、ぼんやりとひなたぼっこをするかのように考え事をしていた僕はがさごそと動く背後の茂みに気付けなかった。
ばっ、と木々を掻き分けて出てきたのは。
「おにいちゃぁん!」
まだ高い声が響き渡り、声の主の――それは妹のアルゥ――ヒノアラシは僕に抱き着いてきた。
「みぃつけたっ♪おにいちゃんみいつけたーっ♪」
抱き着いて来るなり、頬を僕の頬に盛んにこすりつけてくる。
そんな妹に甘えながら、僕は彼女を撫でる。
「見つかっちゃったね、アルゥ…今度は僕がオニで」
そんな時だった。
彼女の小さな唇が僕の唇にそっと触れた。
「大好き…おにいちゃぁん…」
ルーアは僕に甘えるように身を寄せてくる。きっと年頃の女の子が「おにいちゃんと結婚するの!」と言うようなものだろう。
時が経てば、きっといつしか忘れてしまう事だろう。
現実はそれを許しはしない。兄妹で行為を行うなど、許されやしないのだ。
だけど。
だけど、それでも僕は愛おしかった。
「…僕も、大好き、だよ…」
ゆっくりと肺の空気を搾り出すように、言葉を彼女に投げ掛ける。
アルゥはとても嬉しそうだ。言葉では表現出来ないほどの笑みを浮かべて僕を見上げてきた。
だから、それに答えたい。心からそう思う。
僕は瞳を閉じる。
ダメだとわかっていても、そんなの今の僕らにとって全然関係の無いことだった。
僕から彼女にキスを求め、彼女もそれに応えてくれた。
僕はアルゥを愛してる。
長い長いキスだったように思えた。
彼女の手を取って、僕は家に帰った。
 
 
 
勿論僕とアルゥの関係を両親には絶対に言わなかった。最も、言わなくても両親は勝手に僕らの事を"仲の良い兄妹"としか見ないんだろうから、そんなことどうでもいいんだろうけど…。
両親は勿論バクフーンだ。
母は優しく、父は強い。森の皆からおしどり夫婦を呼ばれ、仲の良い両親だ。滅多なことじゃ喧嘩をしないし、僕らを怒ることもそんなに無かった。
そんな両親が食事の時間にこんなことを呟いた。
「二人は、もしも新しく家族が増えるなら、弟と妹とどっちがいい?」
食事時の父さんの一言で僕は呆然となった。
隣のアルゥは魚を口の周りにくっつけながら楽しそうに笑って「妹がいい!私、妹が出来たら一緒に遊んであげるー!」と言った。
「ルーアはどっちがいい?」
穏やかな微笑みと共に母が僕を見て問い掛けてきた。
僕は急に胸が締め付けられるような感覚がした。
苦しい。
今までそんなこと全然考えたことも無かった。
「……僕、わかんない。考えたことも無かったから……あ、もう、寝るね。お休みなさい」
きっと僕はその時赤面していたのだろう。すぐに持っていた魚を口に放り込んで、そそくさと奥に向かってしまった。
「そう。……おやすみなさい、ルーア」
そんな母の言葉に振り返らなかった。
 
そのあと、僕はやってきたアルゥと一緒に抱き合ったり、キスをしたりした。両親には勿論内緒だ。
暖かい妹の身体をぎゅうぎゅうとしてると、自然と僕はまどろんで意識が遠退いでしまった。
まだ、気づいたときにはそう時間は経ってなかったようだ。
んぅ…と起きる。瞳だけ開ける。
その瞬間に寝床に両親が入って来た。
僕は反射的に瞳を閉じる。眠ったふりをした。
「ルーア、ちょっとおどおどしてたわね」
「ルーアも年頃なんだろうさ。……でも、ホントにそろそろ、新しい家族も増やしたいと思っていた頃だし、今夜はどうかな?」
父親が床に横になりながら、母さんにそっと呟いた。大きな掌で母さんの耳を撫でる。母さんは少し俯き加減で頬を染めて父さんを見上げて、小さく頷いた。
もう全然眠くならなかった。それでも薄目を開けてそれを最初から最後まで僕は見ていた。
父さんのキスを皮切りに、母さんが下で父さんが上。二人は呼吸を乱しながら行為を行い愛を確かめ合っていた。
僕にはその行為が何であるのかさっぱりわからなかった。でも、お互いに楽しそうで、幸せそうだった。
僕もこうやってアルゥと一つになれたら……そう考えるだけで、頬がぼぅっ、と熱く感じる。何故だろう。理由はさっぱり分からないのに胸が高鳴った。
両親は何事もなかったかのように眠り、僕自身もいつしか眠ってしまっていた。
 
 
 
「オニさんこちらー!手の鳴る方へーっ!」
森での新しい一日が始まり、太陽が自分達の真上にやって来る頃のこと。アルゥは友達の群れのピカチュウ達と走り回って遊んでいた。僕はそんな姿を横目にお気に入りの木の枝の上でひなたぼっこだ。
やはり、ぼんやりと考えているのは昨日の両親の事だった。何故か頭から離れなかった。楽しそうに将来の話をしながら行為を行う父さんと母さんは普段とは違う一面を持ち合わせていた。
その姿を思い出すと、何故か心が締め付けられるように苦しくなるのだ。
間違っているのを知りながら愛してしまうということはこれほどまでに辛い事なのか。
僕はアルゥをちらり、と見る。可愛くて、無邪気で、護ってやりたくなる。その愛を僕だけのものにしたい。僕だけを、見ていてほしい。
妹はすやすやと眠ってしまっていた。遊び疲れたのだろう。
既に友達の影は消えていた。耳を澄ませても、この付近に居るのは僕と彼女だけだ。
「……アルゥ」
僕は昨日の父さんのように、アルゥの頭を優しく撫でる。
「う……んっ……?おにいちゃぁん……」
目を覚まし、僕の顔が目の前にあったからだろうか。彼女は驚いたような表情だった。でも、すぐに紅葉した紅葉のように頬を赤く染まらせる。
僕はそんな妹が大好きだった。
心の底で何処かに罪の意識があった。
だけど、そんなことは些細な事だと思う。
だって……僕はこれほどまでに妹の事を愛してる。
今まで見てきたポケモンの、誰よりも深く愛してる。
今の僕は昨夜の父さんと同じ表情をしてるのだろう。
「……アルゥ。僕に、身体を預けてほしいんだ……」
彼女の耳の側、吐息が触れるほどに近付いて彼女を求めるように甘い声を出した。
「うん……」
彼女はきっと何も考えていない。
だから、僕が愛してあげるんだ。
彼女が求めたキスを甘く唇で受け止め、舌を交えて深くしていく。
僕の逸物は小さいながらも少しずつ大きくなっていくのを感じる。でも、刺激が足りなかった。
「アルゥ……僕の、舐めてよ……」
その言葉に妹も驚いたように瞳を丸くするが。
「……パパとママもこうやって愛を確かめるんだ」
きっと彼女にとって有無を言わせぬ一言になったであろう。その言葉を聞けば、黙ってアルゥは首を縦に振るしかない。
「ん…ぅ…」
初めは躊躇いがちだったけど、僕の逸物に妹の暖かい吐息と滑らかな舌が触れる度に高揚を覚えた。
今まで抱きしめ合ったりキスをするだけのものとは比べものにならない高揚感だった。
僕の呼吸が必然のように荒くなり、
「あ、ぅ……!もっと、くわえ込んで……!」
「う、ん……っ……」
ぱく、と小さな口で僕のをくわえ込む彼女は大変だろうに、それでも僕の言葉に反することはなかった。
僕は初めて絶頂の快感を得た。
初めての行為に先走りも射精もあったもんじゃないと今更になって思う。
彼女の口内と体中に精液をぶちまけてしまい、彼女は激しく咽ぶ。僕自身は息を荒げながら仰向けにひっくり返り、その快感の興奮に支配されていたのだ。それこそ、妹の身を按じる事が出来ないくらいに。
「……僕の、おいしかった……?」
「に、苦い……でも、」
お兄ちゃんのだったら……恥ずかしくない、よ?
真っ赤にほてった頬と白の精液のコントラストは今まで見た妹のどんな仕草よりも可愛かった。
だから、もう理性を抑えることができなかった。
気付いたら僕は妹を押し倒してた。仔犬よろしく「きゃぅぅ!」と鳴いて僕に押し倒されて彼女の秘所をばっくりと開いた。薄いピンク色の綺麗なものが僕の気持ちを更に高めた。妹から雌の香りを強く感じ、鼻がくすぐったく誰も飛び込んだ事のない領域に僕の逸物は飛び込んだ。
「あぁぁぁぁん……!お兄ちゃん、痛い!痛いよぉ……!」
ヒノアラシである妹の秘所は、当然マグマラシである僕の逸物の大きさに対して狭すぎたのだろう。でも、僕は暖かな秘所から逸物を抜くつもりは全くなかった。精液が零れ、先走りが彼女のナカを濡らしていく。涙ながらに訴える妹の声も素敵で高揚を高めた。僕は気付いたら肉食の餓えた獣のようだった。
ぬちっ、と激しく彼女の中を拡張させながらいよいよ全ての挿入を力任せに終わらせると、腰を彼女に当てるように振っていく。あぅふ、えふ……!喘ぐように僕の玩具にされる彼女の表情がまた可愛らしかった。
「くぅっ……!」
「おにいちゃ……壊れちゃうよぉ……!」
彼女のナカは締め付けるように僕の逸物を包み込み、刺激を与えていく。ぎちぎちに膨らんだ僕の逸物は、ついに彼女のナカヘと我慢できずに――
「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 
 
 
「お前……自分の妹を犯すとか、普通やるか?」
「俺ァやるよ。当時はまだまだ未熟者だったけどなぁ……」
呆れたように瞳を細めるヘルガーに、俺はクハハッ、と牙を鳴らして笑ってやった。馬鹿が、と彼は悪態をついた。そして、鋼鉄の檻が嵌まる小窓の陰から覗く満月に視線を向けたのだった。
このヘルガーは右の角が根元近くから折れていた。なんでも、昔は暴力団の手持ちとして名高く君臨し、悪事を働いていたらしい。麻薬をやり一時期はラリってた頃もあったが肉体は人間のそれよりずっと強力だ。長い収容所生活でその気配は微塵も見せない。そんな悪事を働いていたせいか、何度もガーディやウインディ ――ジュンサーの手持ちの筆頭――との戦いを経験しており、そいつらは彼にとって最も嫌いなポケモンだそうだ。
……ま、実際のところ俺もそうなんだけどな。
尻尾を振って人間に忠誠を尽くすポケモンなんざたかが知れてる。何が正義で何が悪かを連中は判断することができないからだ。ただただ、忠誠を尽くすとほざいて法律がどうのこうのとこじつけて悪と決め付けた人間を捕まえたり、時に殺す。ガーディもウインディも世間じゃ顔を眺めるだけでちやほやされるらしいが、あんなのただの犬に過ぎやしない。
……虫酸が走る。
「で、その後はどうなったんだ?」
月をぼんやりと眺めていただけかと思っていたが、暴力団幹部の有能な右腕様は続きを御所望なさった。
「……どうしても話さなきゃダメか?」
カカッ、と牙を鳴らす。それは俺ではなく、ヘルガーだった。
出処が出処だ。鍛えられた肉体と精神があり、流石の俺も一瞬心臓が縮む。圧倒的な迫力だ。
「ダメに決まってる。……さっさと話せ」
仕方ない。こうなったら最後まで話さないとな。
俺が妹を犯してから数日後の話だ。
 
 
 
森が燃えた。
不法投棄された人間のゴミに燃料が混ざっており、何かの拍子に燃えたらしい。
炎はみるみる勢いを増し、森を覆い隠す。
飛べるポケモンは上空へと避難したが、翼を持たない大半のポケモンは炎に囲まれて逃げ場を失っていた。
「こっちだ!急げ!早く!雌と子供を先に!離れるな!」
「煙を吸うんじゃない!意識が飛ぶぞ!」
悲鳴の中、逃げ惑う子供や雌を纏めていたのは勇敢なる雄のポケモン達である。その中でも炎タイプの親父は最後まで誘導を担当していた。
「ルーア、無事か!」
「お父さん……」
川の辺には多くの草ポケモンが居たため、親父に変わって俺が周囲を探索したのだ。
「……泣きそうな顔をするんじゃない。誰も居なかったんだな?」
「うん……」
よっぽど俺の顔が引き攣ってたのだろう。親父は俺を抱き抱えて、強く握った。
「いい子だ、偉いぞルーア!」
親父が珍しい笑顔を見せた。
その時の表情はハッキリと記憶に焼き付いている。
「このまま、先に避難した母さんとアルゥの元へ向かうんだ。一人で行けるな」
俺を地面へと戻し、胸を張る親父。その口調は同意を求めるものでなく、命令口調で俺は反射的に頷いた。
「いい子だ。……ルーア、行け!」
「父さんは…?」
初めて親父に逆らった一言だったと思う。
親父は驚いたように向けかけた背中を止めた。
嫌な予感だけが、したのだ。
「……ルーア、母さんとアルゥを頼んだぞ」
硬派な父親だったと思う。
そして、責任感があり強い戦士だった。
父は燃え尽きた森の中で遺体として発見された。
死因は煙に混じった化学物質が原因の中毒死。
 
父は人間に殺された。
 
 
 
「俺達は炎には滅法強いんだ。森の中で親父さんも死ぬことはねぇ、そう思ってただろ。……だが、人間の作り出した魔法のような……科学、か。そいつは強力な俺達をも殺す」
独房の中、檻越しに話し合う。
ヘルガーは俺が話している間、黙って話を聞いていた。
……いや、見回りの警備兵を喉で唸り一喝していたな。警備兵も慌てて尻尾巻いて逃げて行きやがった。
「全く、人間ってやつは自分の保身しか考えねぇ愚かな生き物よ」
俺は、その言葉に深く同意した。
基本的に、人間は自分の事しか考えちゃいない。そのひ弱な身体を持って、身体以上に強力な魔法のような強さを持っていながらそれを制御するだけの人間としての価値観を共有できていない。だから大量の虐殺や戦争が平気で起こる。その時、人間が自らの義を掲げることも知っている。義は白を黒にもするし、間違いを正しくもする。つまり、そう考えなきゃ自ら起こした戦争という事実も受け入れられないってことだ。
人間は、死んだものに両手を合わせるか十字を切るだけで自分が偽善者だと名乗る生き物だ。
その合わせる手と十字を切る手はどれ程汚れているか!自分達は理解しちゃいない!
……人間を殺すんだ。
両親を奪った、あの忌まわしい連中を……。
 
 
 
俺は炎の海を走った。
息が切れるほど走りつづけ、ようやく逃げた集団が見えてきた。
だが、そこにあるべきものはいつもの皆の姿ではなく、信じられないものまで飛び込んできた。
「母さん!アルゥ!」
「ルーア……!」
「お兄ちゃん!お兄ちゃぁん!」
アルゥが涙を浮かべながら俺に抱き着いてきた。だが、驚くべきはぐったりと仰向けに寝かされている母さんの傍らに置かれていたもの。
それは、ポケモンのタマゴ。
紛れも無く僕らの3番目の妹か弟の宿るものだった。
「喜んでいるところ済まないが、相談がある」
振り返れば、ガルーラのおばちゃんが立っていた。来い、と一言。
炎の森の中で、一同からやや離れて俺に耳打ちをするガルーラ。
「……見ればわかると思うが、アンタの母さんは見事に次の命を産み落とした。」
やっぱり!俺は胸の高鳴りが止まらなかった。
父さんと母さん、そして、俺とアルゥと新しい妹か弟との生活が待っている。そこにはどれ程の幸せがあるだろう。
だが、ガルーラは俺の頭をヘッドロックするかのようにぐい、と引っ張った。
「話は最後まで聞きなさいと口をすっぱくして言ったはずだよ」
俺ら子供を叱るガルーラのいつもの声が、震えていた。
「アンタの母さんはね。それと引き換えに死んじまったんだよ……この環境での出産だ。無理もない……」
もう、何も聞こえなかった。いや、正確に言えば聞こえていた。
俺とアルゥ、そしてタマゴはガルーラさんが責任を持って育て上げると言ってくれたこと。
ポケモンとタマゴの因果関係は人間には知られていない。それは野性のポケモンの人間には悟られてはいけない秘密の1つだから、俺はこの場に残って母さんの遺体を埋葬しなければならないこと。
俺は黙ってその言葉に頷いていた。
その事に関しては、実は全く何も考えていなかった。
考える事が出来なかった。
自分の中で、母さんの死を受け入れることが出来なかったから。
ガルーラおばさんが慰めの言葉をくれたことは覚えている。
その場に居た皆が涙を流してくれていた事もうっすらと覚えている。
どれ程の時間を呆然と過ごしたのだろう。
気付けば周りに誰も居なくなっていた。
残されていたのは、眠っているように見える母さんと俺だけだった。
そっと近付いて、その頬に触れた。
……まだ、暖かい。
「お母さん……」
知らず知らずのうちに俺は語りかけていた。
「今日の夕飯どうしよっか、って聞いてくれたよね。僕、胡桃のパンがいいなぁ……こんがりと焼けたあのパンは、ほろ苦くて、でも時々甘い。そんな味が大好きなんだ。だから、それが食べたいなぁ。……母さんは料理が上手だよね。いつか、僕の誕生日にそれを食べさせてもらってさ、ずっと……こうやってずっと毎年誕生日を祝ってもらえるのかと思うとずっとわくわく出来たんだ……」
燃え盛る森の上空に雨雲がやってきた。ぽつり、と俺の頬に一滴の雨粒が落ちた。それを皮切りに、弾けたように雨が降り出した。
ありがとう。
僕がそう呟いた時に、母さんの右手の指が微かに動いた。確かに、動いた。
「母さん!?」
我に戻ったように僕はその手を取った。
死後硬直だった。
母さんの体温が雨によって急速に奪われ、身体が硬くなっていく。
体温と一緒に、母さんと過ごした思い出までもが消えてしまいそうな感覚に陥った。
「母さん……母さん、母さん、母さん!」
そんな状態になって、ようやく僕の瞳から涙がこぼれ落ちた。
僕は、泣きつかれるまで泣いたんだ。
 
 
 
『おーい、死体だ。こっちにもあるぞ。』
『運搬してくれ。ブルドーザー頼む』
『火災の割りには、仕事がすくねぇな。此処に居たポケモンの連中、皆どっかに逃げちまったんじゃねーの?』
『ハハッ!ポケモンは災害に弱いからな!有り得そうだ!』
『此処の森も焼けたついでに切り倒して、新しい住宅街にしちまえばいいよ。全部無かった事になるだろ?』
変な声が夢の中で響いた。
すっかり泣きつかれた俺は、無我夢中で穴を掘りつづけ、ようやく土を被せるところで躊躇ってしまったのだ。それに加えて疲れも出たらしい。ぐっすり眠ってしまったようだ。
森の炎は既に先の雨で消えたらしい。見る影も無くなっていた。
そんな木々の隙間から見えたのは――人間。
『ん、こっちにもポケモンが居るぜ』
『可哀相に……息も絶え絶えじゃないか』
反射的に思った。
こいつらに母さんを見せるわけにいかない、と。
後ろ脚で土を蹴った瞬間、俺の耳に思いもよらぬ言葉が届いた。
 
『殺してやれよ。今からポケモンセンターに搬送しても間に合うかわからないし、面倒だろ?だったら楽に逝かせてやるのも俺らの仕事さ』
 
面倒、だと。
俺の中で何かが弾けるかのように立ち上がる。
怒りに身を任せたからかはわからない。
だが、俺は進化した瞬間は此処だと思う。マグマラシからバクフーンへと進化した。
驚くほど身体が軽く動き、そのポケモンに振り下ろされるナイフを左腕で庇った。鮮血が溢れ毛並みを汚したがそんなことはどうでもよかった。
相手は5人居た。ナイフを掲げた男は真っ先に首を跳ねた。援護するかのように立ちはだかった4人の内、2人はモンスターボールに触れる前にそれぞれ両腕を落とし、肋をへし折って絶命させる。モンスターボールからポケモンが何やら出現したが、纏めて俺の炎で焼き払った。数秒間踊った後、絶命した。
返り血で真っ赤に染まったが、怒りが冷えることはなかった。
まず、母さんの元へ。
「母さん……さようなら」
土を戻し、母さんを還してやった。
そして、殺されそうになっていたポケモンの元へ。
よくよく眺めたら、マグマラシだった。
担ぎ上げて、ポケモンセンターへと運んでやった。
ポケモンセンターは始め唖然とした空気に包まれたが、俺がマグマラシをカウンターへと差し出し、戻ろうとした瞬間だった。
どこかの勇気ある人間が手持ちのポケモンに指示を出す声と共にハイドロポンプが俺に飛んできた。
もう限界だった。眠りたかった。
俺は倒れ込み、意識を失った。
 
 
 
気付いたら、この収容所だった。
それから月が上って沈んだ回数を数えることが日課になった。
月は3500回以上見た。この期間が長いのか短いのかはわからない。
ただ、その瞬間はようやく訪れた。
『……出ろ』
看守とウインディが目を光らせる中、檻の扉が開いた。
「じゃぁな、短かったがアンタと話せて楽しかったよ」
「こちらこそ。……あの世で会おう」
ヘルガーは檻から外へと消えていった。
収容所に響き渡る遠吠えを残し、彼は命を絶たれた。
さぁ、次は俺の番だ。
看守とウインディがやってくる。出ろ、と一声。
俺は命令されるがままに外へ向かった。
処刑はガス室で行われるはずだった。
だが。
 
「お兄ちゃんが居ない間、私はバイオリンでとある楽団にスカウトされてたの。……少しは驚いた?」
 
釈放された。外で待っていたのは、麗しい雌へと成長を遂げた我が妹だった。
そして、傍らに居るのは…
「アリア。それから、フォルテ。音楽用語からつけちゃった。フォルテは貴方の弟。アリアは……正真正銘、私と貴方の娘よ」
満月の明かりに照らされて、彼女は足元に居た。始めて見る俺を、おっかなびっくり見上げるマグマラシ二匹。フォルテは雰囲気が父親と俺にそっくりだった。
アリアは目元がアルゥそっくりだった。自分でも驚くほどアルゥにそっくりだ。
俺が口をぱくぱくと開閉させていると、アルゥはアリアを抱きしめて、笑った。
 
「お帰りなさい。パパ」

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プロフィール
HN:
年齢:
34
性別:
男性
誕生日:
1990/04/05
職業:
大学生
趣味:
野球・ポケモン
自己紹介:
Kです。
いろいろ生真面目な事を書くと疲れると思うんで、箇条書きでいいですか?いいですよね。

・野球とポケモンが好きです。
・野球はキャッチャーやってました。ミットを持つと人間が変わるとよく言われます(笑
・ポケモンはラプラス、バクフーン、ラティオス辺りが好み。
・すごくカッコイイかすごくカワイイが好き(笑
・カフェパのプロフナンバーは4。
・芸能人の三浦春馬と全く同じ日に生まれる。雲泥の年収差があってちょっと泣ける←
・音楽も好きです。
・好きなバンドはBIGMAMAとBUMP OF CHICKEN。
・他にも色々ありますが、一番好きなのはこの2つ。


こんなやつです。仲良くしてやってください。
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