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Cloudy――朝焼けの空
こんにちは。此処はKの運営するブログです。ポケモン系なりきりチャット「カフェパーティ」を知らない方、なりちゃ成分に抵抗がある方はブラウザバックを推奨します。

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トライデント医務室にて

とある事情でトライデントに乗り込んだ時のルバート、ケルドのお話。












「乗組員の治療、お疲れ様だ。…もう自室で休んでくれていい。後は部下を送ろう」
「ん、わかったサンキュ」
パーレイスは踵を返すと、医務室を後にした。
多くの患者が眠っている中で、一人だけ隔離された部屋に寝かされている者がいた。
ルバートは手を消毒し、その部屋へと入る。
ICUと呼ばれるこの部屋は生命の危機にある患者のための部屋だ。
包帯でぐるぐるに巻かれ、身体に刺さる点滴の数は実に7本。
輸血、栄養剤等が彼の身体の回りに浮かぶ。
「ケルド…か」
ピッ…ピッ…と心電図が脈を打つ。通常のガブリアスの鼓動とは似ても似つかない小さな鼓動だ。
「普通マシンガンの弾丸を25発も体中に受けて生きてられるほうが不思議だっての」
そう、彼は一応生きている。
「兵士はもう無理だがな…」
脊髄が折れているのだ。
兵士どころではない。通常の獰猛なガブリアスにだって戻れない。
下半身は麻痺し、動かすことすらできやしない。
車椅子でなんとか移動し、メシを食うときは誰かの協力を得なくてはならないだろう。
そんなガブリアスを船に残すわけには行かない。
「だがな、ケルド…お前は望んだよな。兵士として復帰出来なければ、死んでもいいと」
ルバートは浮遊するベッドの取っ手を掴むと、引っ張った。軽くそれは移動し、輸送することが出来た。
「この一週間で目覚めなければ、無理矢理俺が貴様を目覚めさせる。驚くかもしれないが、我慢しろよ。」
医務室の前にあるコンピュータに向き合うと、ルバートはケルドと共に元の世界へと転送した。

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泣き疲れて(20101101)

「北西の国境付近を17、18の両隊で死守しろ。俺達は北東の国境を守る」
「了解しました。開戦は1週間後の夜で間違いありませんね?」
「連中が国際法をちゃんと守れば、の話だがな」
「……そうですね、兵の移動は手早く行うに越したことは無いですね。すぐに行動を始めます」
「あぁ、頼んだぞ」
「ハッ…では」
クロは青年を見送ってから、自分のデスクの上に広げられた地図を見遣った。
先の戦いで得た領土は広大なものであり、多くの資源を有する場所でもある。鉱山にはまだまだ多くの金銀が眠り、海の沖合では石油が掘れるという。そんな場所が場所であるだけに、周辺の国々もこちらの動きを注意深く監視されているようだった。
「富の街…か」
裕福な暮らしとはまさにこのことを示すのだろう。
クロの居る新しい軍司令部は頑丈な建物で出来ており、地上3階建てだった。
最新のモニター、綺麗な食堂、他エトセトラ。クロがこれまで住んできた環境とは全く異なるこの場所での生活は非常に便利だ。
そんな事を考えていると、ゴンゴン、と大きなノックの音。
「オーガだ」
「おう、入れ」
ギィ…と扉を開けて巨体が入って来た。
7メートルの彼も天井に頭を擦る事はない程高い天井である。
「早速だが、新しい隊の様子はどうだ?」
「今までと変わりは無い。俺が統率するなら、このまますぐにでも出撃できるだろう」
うむ、とクロは頷く。
「ならば、20~25部隊で国境の警備強化を頼む。これがお前達の初陣だな?」
「了解しました。…えぇ、光栄ですよ」
ふふっ、とオーガが笑った。
「ならば、戦闘開始まで時間が無い。すぐに訓練を中断して移動を頼む」
「ハッ」
くるり、と素早い動きで扉の前に立つと、一礼。
失礼します、と扉を開けて外へ出たその時。
「おっと…?」
ドン、とオーガの脚に当たり、バランスを崩す少年。
あまりにも彼が全力で走っていたために止まることが出来なかったのだろう。
彼は振り返り、オーガを見遣った。
「ッ……ごめんなさい」
すぐに彼は駆け出して、クロの隣の部屋に飛び込んで扉を閉めた。
オーガはその背中を見送った。
「…今のは、クロの弟じゃないか?」
「ん…白衣で白い翼が生えてる中性っぽいヤツか?」
「多分間違いない。……しかし、体当たりかましただけで泣いちゃうのか」
かわいいやつだ。オーガはそう零して廊下へと出て行った。
クロはその言葉にきょとんと小首を傾げると、廊下へ向かった。そのまま隣の部屋の扉をノックする。
「シロ、入るぞ?」
中へ入ると、真っ暗だった。そして奥のベッドの布団が丸く膨れている。
その中にシロが丸くなっているなど想像にたやすい事だ。
「……どうした、シロ。何か嫌なことがあったのか?」
クロはシロの居るベッドに近づき、腰を下ろした。
数秒間の沈黙があり、シロがもそりと動いた。
「カムイにいじめられたの」
「なんだそりゃ……どんな事でだ?」
「そんなの言えるわけないじゃん…」
「それもそうか」
クロは呟くように言いながら、布団に手を突っ込んだ。すぐにシロの柔らかな猫耳に触れ、そのまま頭を撫でてやった。
「昔はよくやったよなー。こうやってお前が寝るまでずっと撫でてやったんだ」
「……昔の話だよ」
「言うわりに拒否らないじゃないか」
ふふん、とクロが鼻で笑う。シロは何も言わない事で反抗する。
「いじめられたりとか、辛いとすぐに泣くんだから。お前もそろそろ泣き虫を卒業しないとな」
シロは黙ったままだ。
「……シロ?」
問い掛けにも反応しなかった。
「眠ったのか……」
さっきまで起きていたが、あまりにも早い熟睡へ小さく苦笑した。
そして、布団の中で横になっている彼の頭を出してやって……出て来た顔にクロが息を呑んだ。
「なっ……!?」
そこに眠っていたのは、真っ白な猫だった。
半分獣と化した、シロの表情はどこか嬉しげであった。

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牢獄 (20101028)

深夜、一匹の獣が収容所に到着した。
松明が燃え、周囲を固める巨大な狼と竜が唸る。
だが、クロはそれを意にもせずに門を潜った。
昔使って以来、あまり整備されていなかった収容所だ。古い建て付けでありどうやら狼の姿のままで入ることは不可能なようだった。
姿を人のものへと戻した。
入口の兵達に敬礼を反し、中へと進んでいく。
薄暗い石造りの建物は地下に2階、地上に2階という構造だ。地下2階が食料庫である以外、全ての階が牢獄となっている。
クロは地下へと向かった。
地上の階よりも牢獄1つ1つが広いこの階に収容されている者に話を聞こうと思ったからだ。
人間の兵とポケモンの兵がそれぞれ1つの牢獄を見守る。
敬礼を返しつつ進めば、目的の牢獄を守るサイドンが自分を見下ろして敬礼してきた。
「…ご苦労様です」
「あぁ。…休んでいいぞ。ところで、お前のトレーナーはどうした?」
「少し早いですが、交代しました。今頃下でぐっすり眠っているでしょう」
「なるほど」
クロはサンドンから視線を逸らし、巨大な岩の扉に近付き、それに備えられた木製の小窓から中を見遣る。
しかし、残念な事に枷で繋がれた相手の下半身しか見えない。
「…緊張しているようだな」
「えぇ、そりゃもう。何と言ったって、昨日まで戦ってた敵の大将側近です。実力は並大抵じゃない」
「自分より大きな相手は威圧感もある。なるほど、戦意を喪失させるだけの存在感もあるな。…開けてくれ」
「だからって負けを覚悟なんてしてませんよ。…気をつけて」
人間が数人掛かりで開けるであろう分厚い石扉を、サイドンが軽々と押し開ける。
その作業を待って中へと入った。
「失礼する」
「……」
じゃらり、と枷が鳴った。
首、尻尾、両方の手脚に縛り付けられた金属製の太い枷も彼が相手では弱々しく思えた。
兵のサイドンも同じ部屋に入れば緊張の表情を隠せない。
彼の2倍はあろう巨大なサイドン。それが、敵の大将だった。
「なるほど、近くで見ればやはり威圧感が違う。流石一国の軍を率いるだけの存在だな」
クロが床に座り込む彼へと視線を送りながら言った。
「オーガ…7、14メートル」
「クルオラ国軍に所属。最終階級は大将だ」
彼が口を開くと、クロは黙った。
「…まさか国力にこれだけの差があるお前達に負けるとは思っていなかったよ。拳を交えるお前達は強かったのだな」
「驚いたか?」
「…正直、驚いている。であるからこそ、だ」
再びオーガは自身を縛る枷をじゃらりと邪魔そうに鳴らして呟いた。
「殺してほしい」
「馬鹿なことを…却下だ」
「だろうと思った。…お前達はよっぽどの物好きなのだな」
ふん、とクロは鼻で笑い飛ばす。
近くのテーブルに無造作に腰掛けて脚を組んだ。
「クロだ。シティを統括している…おっと、変な気は起こすなよ。その汚い言葉遣いをどうにかしたらどうだ」
「下手な言葉遣いで悪かったな、クロさんよ」
オーガは楽しくなさそうに息を吐いた。
「…で、今の気分はどうだ?生まれ故郷は消え、共に育ってきたトレーナーは殺された。挙げ句捕虜として牢獄にブチ込まれた気分は?」
「スカッとしてる。鎖で繋がれているが、もっと強力な鎖が壊されたんだからな」
ニンマリとクロに笑うオーガ。その笑みにクロも答えてやった。
「心配すんな。俺らはお前達を殺したりしやしない。ポケモンだからと言って、奴隷のように扱ったりもしない。好きなところで好きなように生きればいいさ」
「流石は噂に聞く若干二十歳の名将だ。考え方が既に違う」
「冗談は止せよ。名将など…そんな地位は要らん」
クロは苦笑しながらテーブルから舞い降りる。
そして、鎖が繋がれているとはいえオーガの拳が届く位置まで移動すると彼の腹を軽く叩く。
それを見ていたサイドンは思わず声を上げてしまいそうになるが、何とか堪えた。
「ふむ、扱かれてただけあるな。近くで見れば見るほど、良い身体をしてる。…手放すのが、惜しい」
オーガは撫でられても何も答えなかった。
「お前達の国はポケモンに対する差別が酷いと聞いたが。…それは本当か?」
オーガの首が微かに震えた。
「世界は、まだまだポケモンに優しくないのだろうな。そんな法律を何百年も前に人間が勝手に作ったのさ。国の中での行動…例えば、結婚や言論は制限される。徴兵もその1つだ。…俺は法律学を学んだわけではないが、ともかく住みにくい世界だ」
「…そんな国は多い。俺達もその国に反乱を起こした。成功して今はなんとか生きては居るが、周囲の国は常に目を光らせて俺達を監視していた」
「反乱を自分達の国でも起こさせないため…か?」
クロは小さく、しかししっかりと頷いて返答した。
「馬鹿な連中だ。自分達が甘い汁を吸って生きていられるのは、俺達のような犠牲が幾重にも重なって出来上がった上に座っているからだ」
「…全くの同意見だな」
オーガも肯定の言葉で頷いた。
「クロはこれからどうするんだ」
クロは軽く肩を竦めるような動作と共にオーガに背中を向けた。
翼がゆさり、と揺れる。
「今回の火種をキッカケに、お前達クルオラの同盟国が次々と戦争の挑戦状をたたき付けてきた。…恐らく、戦いたくもないポケモンが大勢居るのだろう。俺達はそいつらを助けるためにも、戦う」
「クロ、それは」
「無茶苦茶だということは百も承知だ。…だが、俺達は世界の秩序を乱してしまった。この流れはもう誰にも止められないだろう。…だとしたら、俺達は戦い続けるしかない」
オーガは閉口した。
クロは視線をサイドンへと飛ばした。
「命令だ。先のクルオラ戦争で捕らえた全ポケモンを釈放だ。仲間になりたいと言うヤツは迎え入れ、全て報告しろ」
「ハッ…人間はどうしますか?」
「殺せ」
「ハッ!」
サイドンが駆け足で消えていく。
クロはオーガへと振り返った。
「俺はすべきこと、成すことをするだけだ。後はお前に任せる。お前なら、仲間を連れて戦禍から逃れるくらいはできるだろう?」
壁に掛けてあった鍵を、オーガへと放る。
そしてクロが扉を抜けようとした瞬間、制止の声が響いた。
「この命果てるまで…クロ、お前の命を受けよう」
直後、オーガの手脚に巻き付いていた枷が彼の筋肉の圧に耐え切れずにバラバラと砕けていく。
首の枷だけは外れなかったが、鎖を引きちぎる。
「…そんなお前にピッタリだぜ」
「奴隷からの解放、か。悪くないフレーズだ」
二人は牢獄を抜け出した。

縛るものは、もう何もない。

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10月14日夜

クロエ、というルカリオと火山で話した。
彼はルカリオの姿を取っているが、どうもそうではないらしい。
詳しいことは彼の記憶が無いので定かではない。
ただ、彼は記憶を取り戻そうとしている。
その様子は影から見守っていこうと思う。

クロ

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10月14日夜

「…シロ、大丈夫か?」
「ごめんね、背負って貰って…」
気にする必要は無い。スピネットは呟いた。
医者である彼の目で見てシロはあまり良い状態ではない。
アーボックの毒を口で吸い出せば当然といえば当然だ。
毒は血液中に直接入れるより飲んでしまった方が吸収…毒の回りが早い。
モモンがあったとは言え、彼は危険な状態だ。
「戻って血清しないといけないな…お前が口で毒を吸いはじめた時は一体どう気が狂ったのかと驚いたよ」
「零の状態もかなり悪かった…あそこでそんな応急処置をしないと生命に関わるかもしれなかったから…」
「…そんな事だろうと思ったよ」
シロは助けられる手段があるのに行使しないという選択肢を選ぶことを嫌う性格だ。それが、島に通う相手なら尚更だ。
「だがな、無茶し過ぎて倒れたら折角助けた相手も良く思わないだろう?…ほどほどに、な」
「うん、解ってる…」
語尾が弱々しくなったシロを横目で見れば、ぐっすりともう眠ってしまっていたのだった。

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10月13日

相変わらず一進一退の攻防が続く。
昼夜を問わず、姉さんの指揮する騎竜隊が攻めるものの、敵の数が多くなかなか均衡を破ることができないでいる。

今日はつるりとデュークにカフェで戦闘の誘いをしたところ、比較的好印象だった。
また話して詳しい日取りを決めて協力してもらうのもありかもしれない。

クロ

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耳と尻尾と2

「…落ちつかれましたか?」
「えぇ、おかげさまで…」
ふぅ、と大きく息を吐く。呼吸を整えてから改めて尻尾を撫でてみる。
ふわりとした感触。温かみの残るそれ。引っ張ってみても抜けないので作り物なんかじゃない。
「生まれて初めてそのようなお姿になれば、当然のことでしょう」
シロの状態を心配してか、男は優しげに声をかける。
「…以外と飲み込みは速いんです。大丈夫ですよ。それに…」
「それに?」
「似たような姿を持つ知り合いが居るので、今度いろいろと話を聞いてみますよ。尻尾の手入れとか、眠り方とか」
言葉を聞いた男ははははっ、と小さく微笑んだ。
「それはそれは頼もしい。是非とも、早く慣れてください。…それでは、改めて」
男が先に立ち、歩きはじめる。
大きなお屋敷だ、というのがシロの印象だった。
見たことも無い紙で出来た横開きの扉を開けて、草の香りのする床を踏んで。
全く見慣れないモノばかりで視線をキョロキョロと泳がせながら進むと、やがて目的地に到着しいたらしい。
「イーア様、失礼致します」
男が明かりの漏れる扉越しに軽く呟くように語りかけると、扉の先から可愛らしい声が返ってきた。
部屋で迎えてくれたのは、一人の少女だった。
「…はじめまして、イーアと申します」
紺色の長い髪と、同色の瞳。喉からの声は澄んだ川のせせらぎか。薄い朱の着物が彼女の魅力を存分に引き立てているように思えた。
真っ白な耳はどうやらシロと似ている…が、先端から少しだけ茶色が混じっているようだ。
尻尾は彼女が布団から上体を起こしている状態だったので残念ながらこの位置からは確認出来なかった。
「あの…」
「あ、横になってても構わないですよ…」
つい見とれてしまったシロは、恥ずかしそうに頬を掻いた。
「爺、席を外して貰えますか?お二人で話がしたいのです」
「承知致しました」
イーア、と名乗る少女に言われた男が静かに部屋を後にする。
残ったのは二人だけだ。
「お名前をお伺いしても…?」
「僕は…シロです。初めまして」
気の利いた一言でも言えればいいのだが、如何せんこの状況にまだ整理がついていないのは事実だ。
「シロさん…素敵なお名前ですね」
「ありがとうございます」
軽く頷いてから、男の見よう見真似でイーアの横に正座で座った。きっとこれが正しい礼儀なのだと信じたい。
「シロさんは、薬師なのですよね?」
「えっ?」
「白い服を着るのは、薬師なのだと…」
確かに今着ているのは白衣だが…と思えばそうではなかった。この世界で男性が着るであろう白を基調とした、浴衣に似たような服だった。いつの間に着替えさせられたのだろう…。
それより、気になるのは薬師という職であることをなぜ彼女は知っているかのように言ったのだろう。例え白い服であっても、ここまですんなりと自分が薬師であることを知っていたかのように口をつくのはどうなのだろう。
少し考えて、簡単に答えが出た。
「…どこが悪いのですか?」
「…えっ」
「貴女は薬師を必要としている。それこそ、とびきり腕の立つ薬師をね…違いますか?」

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耳と尻尾と

眠りから覚めたのはどうやら明け方のようだった。
気付けば、布団に眠らされていた。見慣れない天井が飛び込んで来ると、反射的に身を起こした。
「シロ殿ですな?」
自分の名前が呼ばれ、振り返る。暗くてよく見えないがそこに居たのは初老の男性のようだった。
「え、はい…」
「手荒な真似をしてすまなかった。どうしても、貴殿に頼みたい事があっての…」
朧げな記憶を呼び戻すように数秒考える。
確か、僕は島に居て入り江で話をした後に霧へ帰ろうとしたんだ。だけど、そこで意識が遠くなって…。
「頼みたい事、ですか」
今更暴れても事は何も進展しないだろう。
幸いにも悪意は無いことを彼の心を読み取って察知したので、黙って彼の言うことを受け入れることにした。
「…こちらへ」
彼は立ち上がると外へ向かった。
真ん丸の月が1つ。月明かりで見えたその男にはシロも驚いた。
長い茶色の髪とほぼ同色の獣の耳が、左右に1つずつあった。
世界は広いとはいえ、シロの知る限りで頭にそのような獣の耳を付ける種族など知りはしない。
「耳…」
あまりの驚きに小声を挟むと、初老の男が振り返る。
「驚かせましたかな。…我々の種族はそれぞれこのような耳、そして…」
彼が軽く下を見遣れば、シロもそれに釣られるように見遣った。
男の腰からは、すらりと伸びた細身の尻尾が生えていた。耳と同じで茶色く、作り物ではないと解るのはそれがシロの瞳にはしっかりと揺れて映ったからだ。
「白夜の夜での月明かりでないと、正しいものと認識できなかったかもしれませぬ」
「いえ、そんな事は…」
嘘をつかなくてもいい、そんな意味を込めて彼は首を左右に振る。
「私が貴方をお連れしたこの世界は、そもそも貴方が生まれ育った世界ではないのです」
世界を飛び越えて別の世界に来てしまった。それは島に居るとよくある話なので気にするほどの事でも無いと思うし、さして驚かなかった。
しかし、驚いたのは彼の口から飛び出した次の言葉であった。
「…言い伝えにはこうあります。『世界を越えやって来た若人、その名を刻み白夜と共に我等一族と同じ姿へ変化するだろう』と。」
「それは、僕でしょうか」
「どうやら、そのようですな。…自分の腰を見てみなさい」
まさか、と思った。信じられない、と目を疑った。
その腰には確かに尻尾が生えていた。真っ白で、すらりと伸びた細身の尻尾。試しに意識して動かそうと試みると、かなり楽に動いてしまう。どうやら既に身体の一部と化してしまっているようだった。
「まさか…!」
耳のあるべき位置に手をやった。普段の耳の感触とは違う、やわらかく、大きなそれが触れた。自分で触っておきながらくすぐったくも思う。
庭先に池があったので、そこへと裸足で駆ける。
1つ、深呼吸してから覗き込んだ。
「あ、あぁ…!?」
もう1つの月が浮かぶ硝子のような池に映ったのは、見慣れない耳を持つ自分の顔だった。

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新たなる世界での出来事

「では、新艦隊の完成セレモニーは来月25日ということで…」
「畏まりました。 私も準備に追われる一ヶ月になりそうだ」
「期待してますよ、アイリス艦長。 …では」

第一惑星、通称ポラロンに存在するとあるバーでの出来事。
私は政府軍の司令部に所属するラティアスとの打ち合わせを終え、彼女の背中を見送った。
その背中へと深く一礼する事も忘れない。
本来ならばこのようなお酒を楽しむ席で話すことではないのだが、どうやら彼女が私がお酒好きということを計ってこの場所での面会としてくれた。
実は昔、私は彼女に告白したことがある。勇猛なるその選択は彼女に届かずに見事に撃沈してしまったがね。
「…勘定を」
誰に言うでもなく呟くが、胸の小型のバッジがそれに反応した。
目の前に立体ホログラムが発生し表示されるのは飲んだ酒の種類と総額。
少ない文字の羅列の後、総額の欄に支払い済みの文字。
それを見て瞳を丸くしたと同時、メールが届いた。
音声メールメッセージ。Fromミュート。…今さっきまで話していた彼女からだ。
メールを開くと、彼女の姿が表示される。
「今回は私の奢り。今度暇を見つけてディナーしない?メロトンにお洒落なお店を見つけたの。その時は奢ってね。お休みなさい」
彼女と久々に出会ったのはとても喜ばしい事だが、そこまで楽しい席だったのだろうか。
それとも彼女はお酒に酔ってしまったのだろうか。
前者であると信じたい。
私は勘定を済ませずに店を後にした。
高級店が立ち並ぶロフトの大通りを歩く。
ワープの発達したこの御時世、その気になれば我が家まで一瞬で戻れるが、今夜は少し散歩をしたい気分だった。
オレンジ色の光が零れる何世紀も前のガスランプを催したデザインの明かりが、ほのかに黒い私の身体をオレンジに染め上げる。
そのデザインはこの町並みに良く似合っていると思う。
ポケモンの姿も疎らな時間だ。
ショーケースの真っ白なウエディングドレスを見遣る。
これを彼女に着せたらさぞかし美しいのだろう、と妄想してしまう辺り意外と私も酔っているのかもしれない。そこまでお酒に弱いわけでもないし、飲んでいないと思ったのだが。
胸のバッジに前脚を触れ、帰ろうかと思ったその瞬間である。
「アイリス艦長!」
遠くから聞こえた声を敏感な耳が捕らえた。
振り返れば、バシャーモがこちらへと走って来るのが見えた。
「…えぇと、君は」
「戦艦アドミラルの主砲長の」
「ルドゥ」
私の口から名前が出たのがよっぽども驚いたのだろう。彼は口を半開き、呼気だけが溢れていた。
「その通りであります」
私の戦艦アドミラルの乗組員は数万名にのぼる。艦長に名前が知られない数の方が多い中、自分の名前を覚えられていれば誰でもそうなるだろう。まして、主砲長レベルの彼なら、尚更だ。
「此処で何を?」
彼が続けて問う。
私は通りを歩く。
「新艦隊の一番艦艦長に私が選ばれた。新艦隊完成セレモニーの打ち合わせだよ」
「すごい…艦長、大出世ですね!」
「階級は変わらないが、光栄である仕事には変わりないね。ありがとう」
ルドゥから尊敬の瞳を向けられて少しばかり恥ずかしいと思う。
「…これからは新しい宇宙への進出が求められる。乗組員は、どんなことがあっても動じない。そんな信頼のできるメンバーがいいと思ったんだ。」
少し、星を眺めた。
この宇宙の最果てに何があるのだろう?
そう考えると、私は胸がドキドキして収まらない。
大人になると子供の時夢見ていた事が馬鹿馬鹿しく、廃れてしまうと言われているが…きっとそれは違うのだろう。
大人になっても夢は消えない。馬鹿馬鹿しくなんてない。夢を叶えたい。
私はずっと宇宙が好きで、天文学者になりたいという夢もあった。
だが、望遠鏡から見るだけの世界じゃない。自分自身でその未知なる宇宙への扉を開きたかったのだ。
だから…
「乗組員は全て戦艦アドミラルのメンバーを選んだ。…期待しているよ、ルドゥ。」
ルドゥは口を半開きにして驚いていた様子だが、はっ!と敬礼して見せた。
私は彼のその姿に薄く笑みを浮かべると、我が家に招待しもう少しだけ飲もうと考えたのだった。

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あなたのなかで

そこで眠るのは何度目だろう。温かくて、柔らかい場所。
丸まって瞳を閉じると、俺の記憶の中に居る存在が浮かんでは消えていく。
まずは自分を選んでくれたポケモン達。
最近はすっかりと顔を合わせてない、姉と弟。
軍の戦友。
そこまで浮かんで、そういえば、と思う。

誰が、俺を産んだんだっけ。

それは、確か。
思い出せない。
記憶が始まりだけ途切れてしまっているように。
自分自身の最初の部分が抜け落ちている。

…………………、……………………

まぁ、いいか。
今考えるべき事は別にあるような気がする。
深く、まどろんでいく。





彼女は俺の目元に触れた。
一粒の雫が零れていた。

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プロフィール
HN:
年齢:
34
性別:
男性
誕生日:
1990/04/05
職業:
大学生
趣味:
野球・ポケモン
自己紹介:
Kです。
いろいろ生真面目な事を書くと疲れると思うんで、箇条書きでいいですか?いいですよね。

・野球とポケモンが好きです。
・野球はキャッチャーやってました。ミットを持つと人間が変わるとよく言われます(笑
・ポケモンはラプラス、バクフーン、ラティオス辺りが好み。
・すごくカッコイイかすごくカワイイが好き(笑
・カフェパのプロフナンバーは4。
・芸能人の三浦春馬と全く同じ日に生まれる。雲泥の年収差があってちょっと泣ける←
・音楽も好きです。
・好きなバンドはBIGMAMAとBUMP OF CHICKEN。
・他にも色々ありますが、一番好きなのはこの2つ。


こんなやつです。仲良くしてやってください。
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